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アスリートの食事を支える栄養士
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アスリートの“食”を支える栄養士のリアル
2025.10.01

栄養士と聞くと“病院”や“学校給食”を思い浮かべる方が多いかもしれません。でも実は、企業やスポーツの現場、福祉施設など、さまざまな場所で活躍しています。今回は「食事提供を伴うスポーツの現場」で活躍する栄養士を紹介します。
アスリートの食事を支える栄養士とは

アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できるように、食事面のサポートを栄養士が行っています。
アスリートが日々過ごしている練習施設や寮などの食事管理や、時には海外遠征に帯同し食事提供を行ったり、栄養アドバイスをしたりと、多様なアスリート支援の場で栄養士が活躍しています。
また、アスリートと一口にいっても野球とフィギュアスケートのように、競技によって特性がかなり異なるので、競技を正しく理解したうえで、食事を管理する必要があります。
食事は“環境づくり”から
アスリートの食事内容や量は体格やトレーニング内容、体作りの目標などにより個々で必要量が異なるため、チームなど集団への食事提供の場合は様々なスタイルで提供しています。たとえば、定食スタイルの場合は、ご飯量や常備菜によって個々で異なる栄養量を補う工夫をしていたり、ビュッフェスタイルでは、エネルギーベースでの適量の案内を行っていたり、料理でとれる栄養素をPOPにしていたり、アスリートが自然と適切な食事を選べるような「環境づくり」で対応しています。
トップアスリートが実際にどのような食事をとっているかについては、別の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。
アスリートのための献立づくり
アスリートによっては一般人の1.5~3倍のエネルギー量が必要なこともあり、献立は主食・主菜・副菜・果物・乳製品を揃えた「アスリートの食事の基本形」に沿った構成が基本です。試合前後にはエネルギーや炭水化物の量、消化のしやすさ、提供タイミングなど細かな調整をしています。
現場で感じたリアル
ここからは、大学生アスリートが暮らす寮での食事提供を例に、様々な大学寮での食事提供経験がある管理栄養士にお話を聞いてみました。
声かけから始まるコミュニケーション
寮での食事提供では、日常の会話が大切な情報源になります。「授業どうだった?」「今日の練習どうだった?」といった声かけから、起床時間や練習時間・練習内容を把握し、その日の食事のアドバイスにつなげます。たとえば、「疲労がたまっている」という声があれば、ビュッフェスタイルで提供しているメニューの中で、疲労回復を助ける炭水化物とたんぱく質、ビタミンB群がとれる豚肉と野菜の炒め物+ご飯の組み合わせなどをおすすめします。
好きなもの≧栄養価?!
「栄養価が100点でも、食べてもらえなければ意味がない」そんな考えから、アスリートが完食できることを重視して献立を設計しています。栄養価が多少劣っていても、食べたいと思える食事であれば、結果的に必要な栄養素をしっかり摂取できると考えています。
担当していた寮では陸上部と野球部があり、それぞれ傾向が違ったので、ビュッフェスタイルで提供するメニューは両方の嗜好を考慮していました。
●陸上部:厚揚げの焼き物や魚・肉のパン粉焼きなど、揚げ物風の低脂質メニューに好反応。お浸しも比較的受け入れられやすく、野菜の摂取量も安定していました。
●野球部:肉料理や揚げ物、サラダを好む傾向が強く、お浸しは好まれないため野菜は汁物やサラダで工夫して提供していました。
競技特性が食の嗜好にも影響を与えるということがわかり、興味深かったです。
柔軟な提供体制の必要性
栄養管理では、食事内容だけでなく提供のタイミングも重要です。トレーニング内容によっては、チーム内でA、Bチームに分かれて異なる時間に食事を希望されることもあり、提供時間にも柔軟な対応が求められます。
さらに、遠方での試合に出場する際には、寮からの移動時間の関係で朝食を4時に提供することもあります。試合前のタイミングに合わせて、朝食はご飯に加えて麺を提供して炭水化物を多めにするなど、チームスタッフと事前に相談しながら献立を調整します。
こうした対応は、アスリートのコンディションを支えるための大切な要素です。
意外と“食”に無頓着なアスリートも?
栄養士としてアスリートのサポートに携わってみると、プロのアスリートでも食事に無頓着な人がいることに驚かされます。SNSや著名人の影響も大きく、有名アスリートの投稿を見てプロテインを飲み始めるアスリートもいるなど、情報の受け取り方にも個性が出ます。また、筋肉を増やしたいからといって、プロテインでエネルギーをとり過ぎてしまい、体脂肪が増えてしまったアスリートもいました。
アスリートといっても最初から意識が高いわけではないため、寮の食事以外では栄養を考えず、好きなものを食べてしまっているケースもあります。オフのときや遠征などでは自分で食事を用意する場合もあるため、自分自身で栄養管理する力も必要です。そのために、栄養セミナーや個別栄養相談を実施することもあります。食事提供だけでなく、知識や意識の向上をサポートするのも栄養士の役割です。
やりがいと課題は?
食事提供を伴うスポーツの現場では、さまざまなやりがいや課題があります。
個人差と具体的な栄養アドバイス
個別栄養相談をしていたアスリートが減量や増量などの目的を計画通りに達成できない場合や、個人差の大きさに悩むこともあります。たとえば、双子が同じ食事をして同じ練習をして増量を目指しても、同じように体重が増えないこともありました。とにかく試して、原因を探って、また挑戦する。その繰り返しです。筋肉の増量が難しい場合は、選手と話し合い、一度体脂肪と筋肉を両方増やしてから体脂肪だけ減らすという方法も試してみました。朝食と夕食を寮で提供している場合は、昼食と補食でどれくらいとれば体重を維持・増量できるか、具体的な栄養アドバイスをしています。運動量とのバランスも重要で、練習内容をチームスタッフに確認して必要な食事量を計算し、アスリートに伝えます。
「食事を見直してからコンディションが整い、試合で結果が出た」「体重管理がうまくいった」そんなアスリートの変化が目に見えると、やりがいを感じます。
栄養士は、ただ数値を満たす献立を作るだけではありません。専門的な知識をわかりやすく伝え、実際にアスリートに合っているかを観察し、調整していくことが重要です。アスリートの身体づくりを支える責任を持ち、日々の変化に寄り添いながら、競技力向上に貢献する存在でありたいと思っています。
食環境を通じたモチベーションサポート
アスリートのメンタルをどう支え、引き上げていくかは、チーム全体の成果にも直結する重要なテーマです。あるチームでは、競技へのモチベーションに差が生まれたことで、中心層の選手たちが周囲の影響を受けて意欲を低下させ、食事を残すようになってしまったケースもありました。その際は、食堂でのチームの様子やそれぞれの食べ方をチームスタッフにも共有し、声かけを強化しました。以降は声かけやポジティブなフィードバックを通じて、良い食習慣づくりをサポートしています。アスリートが食事を完食するようになった時は、食への意識が変わったと感じ嬉しかったです。
まとめ
アスリートの競技力向上をサポートしている栄養士は、食事を通して健康維持やメンタルケアにも深く関わる存在です。食事は単なる栄養管理ではなく、アスリートの人生に寄り添う支援。今後ますます重要性が高まる分野です。





